若手医師のキャリアプランに対する考え方の傾向

今の若手医師の考え方は二極化しています。複数の専門医資格を取って最先端で極めたいと考える層と、ワークライフバランスを考えて自身のQOLを高めながら働くことを重視する層です。後者は以前と比べるとドライな印象がありますが、将来的にどこで働くのか、どんな立場になりたいのかを考えたうえでの選択がちゃんとできているように思います。

キャリアプランの方向性を考えるタイミング

初期研修が終わったときがひとつの境目と言えますが、2年間の研修を受けただけで、先が見えるかというとなかなか難しいかもしれません。とりあえず専攻を選んで、専門医研修に進んだけど、やっぱり違うと感じる人が2~3割はいるのではないでしょうか。

ただ、基本的に30代前半には大まかな方向性を決めたほうがよいと思います。医師免許取得後、6~7年目くらいまでが目安でしょうか。その時期に具体的なプランが描けないのであれば、それから徐々に細かいことを決めても構いません。キャリアプランを立てる時期は、若いうちであればいつでも構わないと思っています。これから無限の可能性がある20代後半、30代はキャリアプランを考えるためのキーになる時期です。

自分に合ったキャリアプランを考えるポイント

自分が進む科を選ぶときも、キャリアプランを立てるときも、「好き、嫌いだけではなく、本当に心底やりたい、ここに行きたい」という点に尽きます。ここは絶対に譲れないポイントです。

専門医を取得するとして、例えばダブルボードで救急医資格と外科専門医資格を取りたいと考えたとします。結果を出すには普通にしていては無理で、目標に向かって踏ん張る必要がある。モチベーションを保つためには、本当に好きじゃないとできません。

特定の科が好きじゃなくても、良い指導医と出会って、その先生を目指すものきっかけになります。それがモチベーションになって、その科が好きになってくることもあります。

自分が指導している生徒には好きなことが見つからないなら、逆に嫌なこと、やりたくないことを考えてもらいながら、何が好きだと思えるかを見つけてもらうようにしています。

ある研修医の話で、最初は婦人科を目指していたけど救急に進んだ子がいます。どうして転科するのか聞いたところ、初期研修で1ヵ月救急に回ったけど、苦痛にならなかったと答えたんです。苦痛にならないということは、好きだということだから、それはいいことだねと話しました。

私自身が外科を選んだきっかけは、恩師である教授に声をかけてもらったことが大きく影響しました。そこから医学博士号を取って、留学して、9年目で肝胆膵外科のチーフになりました。今思えば、破格の扱いをしていただいたことになります。取得すべき専門医、そのときの環境でとっておいたほうがよい専門医などを考えて動いていましたね。後輩の育成にも役立つと思い、学会認定を含めると16くらい資格を取りました。これも好きだからこそできたことです。今は複数を取るのは難しいと思いますが、頑張れば基本領域以外に2つ3つは取得できると思います。

病院写真01
北九州市立八幡病院(岡本先生ご提供のお写真)

キャリアプランを実現するために大切なこと

達成する期間を大まかに決めて、ゴールを考えて逆算した計画を立てるように教えています。例えば3年後に専門医資格を取りたい、こんな働き方をしたいと考えるなら、2年前までにやるべきことを想定し、それを踏まえて1年前にやるべきことを実行する。どんな症例を何例集めないといけないのか、そのために、こんな症例をたくさん見る必要があるなど、具体的な計画が見えてくるはずです。

将来、開業して在宅医療に携わりたい、無医村や離島で活躍したいなどと考えるなら、総合診療内科や救急を勉強する必要がありますし、都会の地域医療や看取りをしたいならその経験を増やす必要があります。ゴールを決めないまま進んでも、どこへ向かうのかわからないままです。

ただ明確に期間を決めていると、実行できないときに辛くなりますから、猶予期間など私は大まかな目安で決めています。いつまでに論文をいくつ書くか、手術を何例やるのかなどを自分で決めて、やるべきことを書いたメモを机の前に貼って実践していました。

キャリアプラン変更時の注意点

医師として嫌なこと、できないと思うことを一生選ぶのは苦痛です。以前と比べて、専攻を変更する垣根は下がっていますから、「やってみたけど違った。どうしても合わないから変更したい」と思ったら、早く見切りをつけて新しい道に進んだほうがいいかもしれません。そうしないと、次の専門医を取るために年齢を重ねてしまいます。もちろん、しっかり考えて、いろんな先生に相談したほうがよいです。

ただ、できればある程度の経験を積むために、同じ分野で3年くらい続けられるとよいですね。手技を身につける分野であれば5年程度でしょうか。

キャリアチェンジのタイミングは、あまり期限はないと思っています。例えば45歳で変わってもいい。ただ遅くなればなるほど、1からやり直すのに大変なだけです。特に手技が伴う場合には、厳しくなります。

例えば外科系は若いうちに入ったほうが明らかに有利です。25歳で外科に入局するのと、40歳で入局するのでは明らかに差がつきます。内科系で言えば、心臓カテーテルとか脳内カテーテルとかの症例に精通したいなら、なるべく早いうちに行ったほうがよいでしょう。

逆に、手技が伴わない場合、例えば精神科や糖尿病内科などへの転向は、人生経験や年齢を重ねた後でも変更しやすい傾向にあります。あとは、本人の頑張り次第です。

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岡本先生ご提供のお写真

キャリアに関わらず大切なこと

キャリアの選択肢が多様化して、すぐに転科しやすい自由もありますが、周りへの視野を広げて、相手を思いやることもキャリアを実現するためには大切なことです。

医師である前に、社会人の1人として立ち振る舞いを考えなければいけません。基本的なコミュニケーション力は、診療や他職種との連携に欠かせません。周りへの心配りや、時間や約束を守る、身だしなみを整えるなども、基本的なことです。

また、将来開業を考える人だけでなく、部下のいる役職を目指すうえで経営感覚を養っておく機会を設けておくとよいかもしれません。役職が上がり、30代後半にもなれば部下が増えてきます。40代半ばで医局長や研究室長となれば、運営感覚、経営感覚が欠かせません。私はそのような分野の関連書籍を読む機会を増やしていました。

もう1つ、医療業界以外でいろいろな知り合いを作るのも実は大切です。趣味や会合など、出会う機会はたくさんあります。家族の友人と親しくなるのも人脈を広げるきっかけになります。幅広い職種の人と話していると、話題も事欠きません。それが、将来、在宅医療に携わったときの接し方になったり、終末期医療などでの話術を高めたりします。そうした社会勉強は医学部では学べませんから、実地で習っていくしかありません。治療や診療スキルを勉強するのとは別のキャリアアップの形です。